技術情報
2020/07/02
ラインは縮みます。
スクール機を含めて古いキャノピーのラインがどのくらい短く縮んでいるか何度も測定したことが有ります。飛行中にあまりテンションがかかっていないCラインDラインは一般的に10センチ以上縮みます。ですから翼弦の短い高性能なキャノピーは年数がたつと向かい角が上がりますから、ブレークコードを引かなくても極端に飛行速度が遅くなるので危険です。(ライン交換をするとき、反対側のラインを送るのは、ラインのちじみを確認して作成しているのです)
※翼弦の短い高性能なキャノピーは早いサイクルで買い替えをお勧めします。
※高性能なキャノピーの中古は買うべきではないと思います。
※昔、高性能機を販売して3年目にメーカー本部から「ラインを全部取り換えてください、CとDラインが予想よりちぢみが早いので・・・」と指示が出て、何機か取り換えたことが2回あります。
ちぢみが少ないケブラーが一時採用された時代が有りましたが、伸びが無い分、潰れからの回復の衝撃に弱く、破断しやすかったのでダイニーマになっています。
僕はもう20年くらい、Bクラスの上のCクラスは1機ぐらいしか販売していないです。Bクラスで十分楽しいと思うし、未然に事故を少なくできるからです。
2020/07/02
デザイナーの設計コンセプト
飛んでみてメーカーデザイナーの設計コンセプトが解かります。例えばオゾンはポーラーカーブの右寄りで設計されていて、ニュートラルの飛行速度が速いです。
一方、Uターンは明らかにポーラーカーブの左寄りで作られていて沈下速度が遅く、浮きの良い設計です。
ノバは初級機を含めラインの全長が極端に短い設計で、抗力の小さい事で滑空比が良し事と、アクセルを踏み込んだ時の加速に伸びが有ります。僕はノバのハイエンドBで60パーセント片翼つぶしを何度もやっていますが、全く回復動作をしなくても回復特性がとても良いです。
2020/07/02
後書きです。
平成元年からハンググライダー仲間に頼まれて、しかたなくハンググライダースクールを始めていますが、(ルスツでハングの校長だった遠藤氏がニセコに行ってしまったので、その後のハンググライダースクールです)そして次の年にはパラグライダーをやってみたい人がスクールに来たのです。でも、山頂から着陸場に届くような滑空比のパラグライダーは無くて、パラシュートでした。
すでに国産のパラグライダーを製造するメーカーが多数あって、海外はジンの前身のイーデル・エルドカ・パラテック・今もキャノピーを作っているITV(当時の業界はエーテーベーと発音していた)などが有りましたが、その頃はまだ理論的にキャノピーの翼を設計できるメーカーがなく、(イメージとしては、インテークから人が入る事ができそうな)スカイダイビングのキャノピーに少し手を加えた程度の商品しか無くて、3年後くらいにイーデルのコルベットがやっと頭上で止まってくれるリフレックス翼(戦後ドイツのホルテンと言うリフレックス翼の無尾翼機が開発されていた)が出てきました。それまでのキャノピーはライズアップをすると1メートルくらいブレークコードを引いて頭上でキャノピーを止める動作が必要で、頭上に止める最初の操作がとても難しいものでした。
ノバ・スイング・アドバンス・オゾンなどはしっかりと翼の理論と知識をもって立ち上げた後発メーカーです。(その頃にはMS-DOSCGによる3次元図面設計が、世界中で始まり、キャノピー生地のカッティングも大きなXYプロッターで切り始めていました)
話は少しずれますが、その頃は優れたデザイナーとテストパイロットが居る開発メーカーがいくつか出てきたのですが、反面、それをコピーして販売するコピーメーカーが沢山出てきました。
バイヤーの話では「自社開発ができているメーカーは世界中に10社もなくて、そのほかは・・・」と言う時代が始まりました。
コピーメーカーのキャノピーは出来上がったキャノピーのチェックが甘くて、例えば誤差の範囲で言えば10p以上横に長く出来上がったり、小さく縫い上げてしまったものも出荷しているうわさが長く続きました。
話は戻ります。
コルベットが出た後、あっという間にすべてのメーカーがリフレックス翼(翼断面が後ろの方で上向きにそりあがっているリブの形状で、ライズアップしたキャノピーが頭上で止まろうとするキャノピー)に改良され、販売各社が「今はどこのメーカーもリブの形が一緒だよ」と言っていました。
それから、僕が4機目に乗った時代のキャノピーは、スパイラルに入れようとすると、キャノピーだけが上でくるりと回転して、目の前でライザーがねじれてしまって・・・でした。
これは各社翼端をドロップチップに設計することで解決です。
国産のメーカーがVリブを発明し、海外からはキャノピーの内部に横にまっすぐ走る生地を縫い込んで翼端が前後に揺れて潰れてしまう現象を抑え込んだりじわじわと改良がくわえられていきます。
その次には世界中のパラメーカーのほとんどが中国の同じ工場で生産され始めたりです。
(技術的な進歩と展開は、書き始めると何十ページにもなるので、このくらいにして)
揚力の7割が翼の上面で作られます。その7割の内の5割は翼の前の方で作られるので、インテークから3分の一くらいまでは凸凹になっていると翼の性能が大きく半減します。
ですから最近はインテークの上面の生地を3次元に細かく切り詰めて凸凹を小さくしています。
キャノピーのセルの数を多くするのもキャノピーの上面を風がきれいに通過することで風が乱れず剥離しない設計になるのですが、その分ラインの本数も増えてしまい、トータルラインの長さが増えて空気抵抗が増します。
でも、セルの数を100近くまで細かく切り分けて、ラインの付け根からVリブが4枚出ていて、外側のVリブは一つ目の縦リブを貫通して2枚目のリブまで伸びている翼を開発して、上面の凸凹が少ない画期的なキャノピーが何機か出ていますね。
滑空比も素晴らしいです。(航空業界に「美しいものはよく飛ぶ」と言う言葉が有ります)
4枚のVリブ設計をすることでアンダーサーフェースから出るラインの数が少なく、トータルラインの長さを極端に少なくして空気抵抗を減らしています。
でも、キャノピーの設計は図面で出来ても、合計7枚もの生地とそこから伸びるラインとまとめて縦横ズレないように縫製する事は、選ばれた職人でなければできないと思います。
その縫い目はキャノピーの内側で縫い上げています。いったいどうやって縫うのでしょう。
2020/07/02
石狩平野の風とクラウドストリート
石狩平野では春先のまだ海水温が低い時に内陸に強い日差しが入ることで、朝日と共に石狩川に沿って海風が内陸に入り込み、風向きによっては昼頃には美唄の方まで風が強くなります。また、石狩から入る風と、苫小牧から入る風が石狩平野のどこかで、前線のようにぶつかって背の高い入道雲の帯ができている日がよくあります。
ルスツで以前羊蹄山から伸びてきたクラウドストリートに乗って何キロも羊蹄方向に飛行しています。あるパイロットが西斜面で地上からのサーマルに乗ってクラウドストリートまで上昇することができたので「そのままクラウドストリートの雲底を羊蹄の方に飛んでください」と、無線を入れています。
ストリートの中心部で吸い込まれないように外側に逃げたり、また中心に戻ったりしながら雲底に張り付く高度でずっと飛行します。
その時は真狩から京極に抜ける97号線のあたりまでずっとその雲底を飛行して、まったく高度を下げずにその雲底高度のまま橇追山に戻ってきています。
ルスツでは時折噴火湾や昆布岳から時々クラウドストリートが来ているですが、パラグライダーではなかなかその高度までたどり着けないのです。でもいつかその時のためにイメージしておいてくださいね。
2020/07/02
クロスカントリーフライトについて
クロスカントリーフライトの狙い目は上空に冷たい寒気が入ってくる春と秋、そして朝の気温が低く日中の日差しで気温がどんどん上昇する日は、程よく上昇気流に勢いが有り、クロスカントリー日和です。コースを理論的に割り出しながら飛んでいると、次々とサーマルがすぐに見つかります。上昇気流を楽しんでいる僕たちには白く光っている雲は、ここまで勢いのある上昇気流が真下から上がってきていますと教えてくれます。
僕たちは飛行中の高度が低いときは地表の熱源を探しますが、雲底近くになると雲を理論的に観察します。
雲の理論を熟知して上昇気流をイメージし、私たちはより高くより遠くへ飛行します。
そんな日は下降気流も強力なので、コース取りを誤るとあっという間に下りてしまいます。
たとえば午前中の林の中は冷気が残っているので下降気流になっています。沢地や河川敷は間違いなく下降気流ですから、ショートカットするフライトはうまくいきません。
太陽熱で地表の温度が上昇し上昇気流が発生しているはずの、黒土が見えている開けた畑のコースで遠回りをして手堅く飛行します。もちろん地面の温度が50度を超えていそうな駐車場や道の駅のアスファルトから出る強烈な上昇気流は、遠回りしてでも利用します。
その後飛行高度が下がると、もう一度駐車場まで戻ってあげ直しをすることもあります。
すべてはその日の貴重なコンディションの1本のフライトを大事に最大限に生かします。
下降気流を予測できなければ、遠くに飛ぶことはできません。下降気流にはまったら、まずはすぐにUターンして飛行コースの練り直しです。
繰り返しますが、その貴重な1本のフライトを簡単にはあきらめずに飛行し続けるのです。
寒気がクサビ形に入り込む穏やかな前線に乗ると、センタリング無しでずっと飛び続けることができます。ルスツでは飛行中に北風になり、簡単に洞爺湖方向に飛行しています。
あらかじめその日の風予報を見て、北風が入る前にソアリング開始です。北風に変わると上昇が始まるのですが、そのまま飛行速度で直行せず、地上の風を観察しながら、サーファーが波の上に乗り続けるようなイメージで、いつまでも前線の移動速度に合わせて前進です。
その他、東風が海から入ってくるエリアは、後ろからくる偏西風とぶつかって2000mを超えて上昇気流が上るエリアがあちらこちらに有ります。
山岳波(ウエーブ)に乗ると、センタリング無しでいつまでも上昇し続けるのです。僕は尻別岳で軍人山のウエーブで2100mまで上昇したことが有ります。その時はバリオが+3mで安定して上昇し続けました。
別の東風の日に、離陸した尾野さんを「どんどん市」のあたりまで無線誘導して、貫別岳からのウエーブに乗った時、まっすぐすっと上昇しています。
2020/07/02
気圧と空気の重さについて
※気圧は100m上昇するごとに10hPa(ヘクトパスカル)低くなり大気の気温も100m上昇すると0.6度下がると言われています。(あくまでも平均的な数値です)※空気は海抜高度において1立方メートルあたり約1Kgの重さがあります。気圧はその空気の重さが積みあがっていて、海抜0mにおいて1平方メートルあたり約10トンの大気圧がかかっています。
※飛行中の空気もおおよそ1立方メートルあたり約1Kgの重さが有るとして、飛行しているキャノピーの中におよそ5Kg〜10Kgの重さの空気か入っていますから、キャノピーの重さに加え、僕たちは10Kg以上の重さのキャノピーをコントロールしているのです。
でも、最近出てきたシングルサーフエースのキャノピーはキャノピーの重さしか無いので、重い空気を抱えていないので、サットやタンブリングは出来ないと思います。ステーブルスパイラルにもならないしマックツイストも多分無理だと思います。
2020/07/02
サーマル雲の始まりと終わり
出来始めの雲は水滴がとても小さく、見た目には白く光って輝いて見えます。次々に上昇してくる水蒸気の潜熱で、その高度を起点にサーマル雲が縦に伸びて、そのエネルギーが大きければ毎秒4mを超える強い上昇気流となりパラグライダーには危険な大きな入道雲(積雲)に成長します。(注2)最初は白く輝いて膨らんでいた雲が、やがて水滴は互いにぶつかり合って大きな粒となり、時間と共に直射日光が当たっているのに、雲全体が輝きを失い灰色になって間もなく数分で消えてしまいます。
大きくなった水滴は、ついには雨粒となって落下し始めるのですが、雲底からの高さ100〜200m前後の小さな雲から落ち始める水滴は小さく、地上に落ちてくる間に気圧と温度が上昇するために目に見えない水蒸気に戻ります。
でも、500mを超える大きな入道雲には大きな質量の水分があります。大きな入道雲は水分が飽和状態になってかなり大粒になり、時に0度以下の高度まで水滴が上昇し冷たい寒気を伴って地上まで落ちてきます。(ダウンバースト)
なので、僕たちが利用するのは吸い込みに勢いのあるピカピカのサーマル雲です。
灰色になりはじめた雲は、上昇気流のエネルギーが衰えて、下降気流のエネルギーが作られはじめていますから、利用できません。
注1
実はエマグラムの雲底高度でいったん気温が上昇する逆転層が存在する理論が、ずっと分からずにいました。
最近になって仕事つながりの気象予報士のS様と仕事をしているときに、エマグラムの曲線についてお聞きして、潜熱と言う言葉と理論を教えていただきました。(僕の中に30年以上も疑問となって引っかかっていたのです)感謝です。
注2
40年ほど前、ルスツでハンググライダーに乗って試しに入道雲の中心部をそのままセンタリングで上昇したことが有ります。(その頃はニセコに住む遠藤さんが校長で「入道雲の中に入ってはいけない」とは言っていましたが、あえて1度だけやってみました。
入道雲の中心でのセンタリングはあっという間に上昇しました。周りは真っ白ですが、真下だけが地面が見えます。
そのあと、入道雲から出てくるまでの体験でいうと、パラグライダーで入道雲に入るような事は危険なのでやってはいけません。(ハンググライダーはどんなに気流が悪くても翼は潰れない)
その頃は買ったばかりの機械式のアナログバリオメーター(7万円)です。大きさは10センチ角厚さは3センチほどの表示部分と、その奥にさらに直径7センチくらいの気圧ボンベが7センチくらい奥に伸びていて、すべてアルミでできていました。(飛行機に取り付けているものと同じでアップライトに固定して使用します)
高度計もスカイダイビング用の最新のものを購入したのですが、直径5センチくらいの大きな腕時計型で金属製ダイヤフラムの時計仕掛けの機械式、4万5千円です。両方購入すると1カ月の給料が飛んでいました。
2020/07/01
サーマル雲・入道雲について20.7.1
雲底高度でどうして気温が少し上昇するのか、灰色になってきた雲が、なぜ数分で消えてなくなるのか、僕の中で分からなかったことを書き記しますね。日中、太陽熱で地面が温められると、地面の水分から熱を奪い(吸熱)目に見えない水蒸気を含んだ空気が上昇します。
地面の熱を奪った大気、水蒸気を含んだ大気は乾いた空気よりも軽いので、大きくはベナール対流、小さくは地面からコアになって熱上昇風が水蒸気と共に上昇し続けて、その日の露点高度(雲底高度)まで上昇して、水蒸気が目に見える雲(正式には水滴または水)になります。
この露点高度でエマグラムで表される気温が、わずかに上昇します。理由は露点高度で水蒸気が目に見える雲になる時、水蒸気に蓄えられていた熱「潜熱」(せんねつ)が水滴に変化することで発熱し、雲底高度において、わずかに気温が上昇するエマグラムになるのです。(注1)
地上で吸熱した水蒸気を含んだ熱上昇風は雲底高度まで上昇し、日によって目に見える雲になります。
雲にならない乾いた大気の日もその高度でわずかに気温が逆転しているようです。
雲底高度はその日の気圧と温度と湿度とが関係し、計算式でもその日の雲底高度がきまりますが、僕らはセンタリングをして上昇できるのはほとんどそこまでで、僕はそれ以上に上昇できたことはあまりありません。
でも、ルスツ以外のエリアでは雲底高度をはるかに超えて上昇するエリアがたくさんあります。エリアコンデションはそのエリア特有なのです。
※潜熱は、結果として病院のアルコール消毒で、アルコールが蒸発するときに肌の表面の熱を奪い肌の温度が下がる現象や、エアコンや冷蔵庫の中で行われる冷暖房のいわゆるヒートポンプの仕組みに利用されています。