2 クロスのライズアップ
2018.08.14

2 クロスハンドのライズアップは


クロスハンドライズアップは、正対ライズアップの応用なのですが、ラインの絡みや扇形に広げたキャノピーの真ん中に立っている事の確認に加え、上がり始めるキャノピーの状況を見ながらライズアップができる大きなメリットが有ります。
クロスハンドのライズアップは、その場に立ち止っていてもキャノピーを頭上にホールドできる風の時にはおすすめです。


正対と同じように上がり始めたキャノピーのバランスを見ながら横移動を開始し、斜めに傾いたキャノピーも俊敏な横移動とブレークコード操作をして、キャノピーが上がり切った時に、すでにパイロットが真下に移動している事がとても大事です。
僕は、真下よりも少し行き過ぎた位置まで横移動して、ライズアップした位置に少し戻っています。是非一度やってみてください。なぜそうするかが分かります。

初級機では横移動を後回しにしてブレークード操作優先でコントロールをすることもできますが、練習方法としては正しくありません。
初級機はブレークコード操作のみでも何とか形になりますが、アスペクト比の大きいキャノピーに乗り換えた時、ブレークコードの操作だけではキャノピーのホールドが出来なくなります。
ライズアップの練習は、是非、俊敏な横移動を行って完璧なホールドを心がけてください。

ルスツのテイクオフは平らです。


ルスツはテイクオフが平らですから、ライズアップが一ランク安全なのです。
山頂の平らなところでのテイクオフは、キャノピーのクラバットやラインの絡み、アクセルラインの接続忘れ等にも気が付いて、もう一度ライズアップのやり直しができますが、斜面の近くや斜面からの離陸では、その事に気が付いてもしかたなく離陸します。さらにはライズアップがうまくいかずキャノピーが傾いたまま引きずられながら離陸したりもしますから、風が強いからといって斜面に降りて行って離陸するのはお勧めできません。

パイロンスラロームについて。

ライズアップの後、正対で頭上を見上げずにキャノピーをバランスよくコントロールする技術として、皆さんにゲレンデのパイロンスラロームの練習をお願いしていますが、ルスツの東斜面も含めて、ほかのエリアではスキー場など緩斜面を数十メートル走って離陸するエリアが多いので、この技術はとても大事です。

ライズアップしたキャノピーが崩れる前に、大急ぎで走り出すのは初心者です。
スラロームがうまいパイロットは、周りで見ていても、ライズアップからテイクオフまでのバランスがとても美しいのです。



3 強風では理論的に
2018.08.14

3 風の強い日は理論的なライズアップが必要です。少し僕なりのコツを書いてみます。


ルスツの山頂は比較的強い風が入っているのですが、山頂の地形のおかげで風が強くても地面に広げたキャノピーが風で流されずにライズアップが出来るのですが、キャノピーが45度くらい上がったあたりからキャノピーに斜面上昇風が強く入ってくるのでパイロットが一度浮いてしまい、失敗しやすいことが有ります。

そんな強い風が入っているときに失敗しないコツは、キャノピーが上がりはじめたらすぐにキャノピーの方に走り出して、キャノピーの前進速度を遅くし、離陸速度にならないようにします。風の強さによっては、広げたキャノピーのあたりまで走りこんでブレークコードを引き込み、キャノピーをホールドします。

風が強いのに立ち止まったままでライズアップをすると、斜面からくる風速に加えてキャノピーの前進速度がプラスされて離陸速度を超えてしまいパイロットが浮いてしまうわけですから、キャノピーの方へ走り出すことで離陸速度以下になる引き算になるのです。

それでも浮いてしまうような風の時は、危険ですから飛ばないでくださいね。



4 フライト前のチェック
2018.08.14

4 フライト前のチェック


エリアの山頂にある吹き流しを見てその日の風を確認し、ハーネスのレスキューピン、着込んだハーネスの各部のバックルがしっかり接続されているかチェックです。
ライズアップ前のセットアップは、扇形に広げたキャノピーのライザーとブレークコードを一本ずつ引いてラインチェックします。そしてもう一度ハーネスのすべてのバックルとカラビナのチェックに加え、アクセルラインの接続を忘れていないか、ブレークコードがライザーに一回りしていないか、バリオの電源スイッチ、無線の送受信などもしっかりチェックを完了してください。

15年ほど前まで、山頂での移動や休憩のときに両足のレッグベルトを外してしまい、その事を忘れて離陸し、座板に座ることが出来ずに飛行してしまうアクシデントが世界中で起きていました。

僕は、20年ほど前に一度だけ目の前で、ハーネスからパイロットがすり抜けて、ハーネスだけが飛んで行ったのを見ました。(そのパイロットは、正対でライズアップしたその場所に立ったまま、両手を上げたままで、真上に飛んでいくハーネスを見上げていました)

その後のハーネスは世界中で改良され、座板の真ん中からもう1本ベルトが増えて、お腹のチェストベルトのT型バックルで接続されるシステムに変更になりました。
フライト前は、アクセルラインの接続も含め、再度ハーネスのチェックをしてください。

テイクオフ前の「無線チェック」の言葉を「レッグベルトOK」に変える案はどうでしょうか。

ハガキのような厚紙に自分なりのチェックリストを書き込んで、テイクオフ前にひとつひとつチェックする事も良いと思います。(離着陸前の航空機パイロットの必要事項です)

この春のカムイリンクスではほぼ無風の中で、正対ライズアップから3秒間頭上のキャノピー点検、そして全速力の加速をして30mほどゲレンデを走って離陸しています。

スキー場は緩斜面なゲレンデからの離陸が意外に多いのです。
その時のためにルスツの東斜面からの離陸も、時々練習すると良いと思っています。



5 タンデムは更に2ランク
2018.08.14

5 タンデムのライズアップは更に2ランク上の難しさが


僕はタンデムフライトパイロットをすることが有ります。ライズアップの時のパッセンジャーは、横移動も縦移動もしてくれませんから、ライズアップやテイクオフはとても難しいのですが、基本は横向きのライズアップと巧みなブレークコード操作でパッセンジャーの頭上にキャノピーをホールドして走り出します。
時には風が強くてライズアップの瞬間に僕もパッセンジャーも数メートル後ろに飛ばされることが有りますが、それでもしっかり立っていて、キャノピーを頭上でホールドします。
タンデムのライズアップは、日常的なライズアップの理論とは違う難しさが有るのです。

パッセンジャーは走ってくれません 

離陸の時はお客様に注意事項として伝えることで走り出してくれるのですが、着陸の時に何度も「走ってください」と促しても、なかなか走ってくれません。

タンデムフライトは、パッセンジャーを乗せてのフライトです。しっかりとしたタンデムインストラクターに、正しい知識を学んで始めてください。




飛ぶための豆知識
2018.08.14

密度高度とレイノルズ数、そして翼面荷重について


密度高度について分りやすく説明をします。


暖かい日に、海抜の高いところで離陸しようとすると、なかなか離陸しません。気温が高い日、海抜が高い所は空気密度が膨らんでいて空気密度が低いのです。

冬になると空気密度が上がりわずかな風でソアリングができます。冬のモーターパラは、あまり走らなくても離陸するのが分かります。

レイノルズ数について分りやすく説明をします。

滑空性能50対1のセールプレーンと同じデザインで模型グライダーを作っても、空気密度に対して、翼の長さと面積が小さいせいで、まったく同じ滑空性能にはなりません。
翼の大きいタンデム機は、レイノルズ数が有利ですから、二人分の重さの面積は必要ないのです。


まとめ


富士山の山頂から何時ものように離陸しようとすると失敗します。

富士山山頂は気温が低いので空気密度が高いのですが、高度3,770m位からの離陸は空気密度が地上の半分くらいですから、走っても走ってもなかなか離陸しないのです。

富士山から最初にハンググライダーで飛ぼうとした田中さんは、向かい風が無かったために走っただけでは離陸速度を超えられないと判断し、スキーをはいて離陸しようとしていました。


キャノピーの中の空気


キャノピーの中に重もたい空気が入っています。
空気は1㎥あたり1.2Kgの重さが有り、ふくらんだキャノピーの中に入り込んでいます。
キャノピーの大きさによって違いますが、5Kgから10Kg空気がキャノピーの中に入っています。
動きの無い時には関係ない重さなのですが、キャノピーが動くと、遠心力や慣性の法則に伴う重さが現れて、サットやスティーブルスパイラル(バーチカルスピン)の時にキャノピーの重さに加えてキャノピーの中の空気の重さによって、その理論が成り立ち、旋回の中心がパイロットとキャノピーの内側になるのです。

強風のライズアップの時にはキャノピーの揚力の他にキャノピーの中の重い空気が急激に持ち上がるので、慣性の法則でパイロットが持ち上げられているのです。


僕らはキャノピーの重さに加えて、その空気の重さを含めて、キャノピーをコントロールしているのです。


知識がなかったことによる事故


それはリリエンタールの昔から、空を飛ぼうとする事において、幾度となく「知識が無かったことによる事故」が繰り返されてきました。


その残念な過去をふまえて、パラグライダーからジェットエンジンで飛ぶ飛行機まで、より安全な性能や対策が行われてきています。


僕がパラグライダーを始めたころは、初級機なのに日常的にキャノピーが潰れ、回復操作をしなければならない時代から飛び始めています。デザイナーが翼の理論や知識を持っていないし、スカイダイビングのパラシュートをもう少し改良した程度の翼であった時代からこれまで改良がくわえられて、近年の初級機の絶対的な安全性能は、素晴らしいものです。


空を飛ぶために、コリオリの力を含めあらかじめの知識を持っている事で、不意に遭遇する魅力的な上昇気流を最大限に利用することが出来ます。そしてその風を幾度も体験する事で技術が磨かれ、対流する気流の奥深さにとらわれてしまいます。



失速について


僕はハンググライダーを始めてから42年ほど空を飛び続けていますが、パラグライダーは失速に至る飛行速度範囲がきわめて狭い乗り物です。初級機は失速しにくく穏やかな失速特性と回復特性で設計されていますが、ハイエンドBクラスあたりからは、くれぐれも飛行速度を保って離着陸をしてください。


とくにブレークコードの引きすぎの状態では失速に近いのでとても危険です。離陸直後に失速して林の中に降りしまったり、気流が不安定なのにブレークコードを引きながら進入し、ふいに失速して激しく着地するのを何度か見ています。そしてブレークコードを引きすぎていると速度が無いので、フルブレークをしてもドスンと着陸します。


翼で飛行するすべてに言えることは、失速すると墜落します。くれぐれもポーラーカーブをイメージして、最少沈下速度よりも速度を保って安全飛行してください。

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